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孤独な趣味の世界
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『旅芸人の記録』

テオ・アンゲロプロス監督




 早稲田松竹にて鑑賞。実は前日に『2001年宇宙の旅』を観ていたのだが途中かなりウトウトしてしまったのでそれはなかったことにして、これが2009年の映画初めだと意気込んでチケットを買ったものの、結局この映画でもウトウトしてしまった。それもこの作品、3時間52分にもわたる超大作なのだが、クローズアップを極力排除した超長まわしを特徴としており、特に淡々と静かに物語が展開(転回)される前半部は、眠気を催さずに観るにはかなりの集中力を要する。しかしながら、「やれやれ、これが4時間続くのか」などと思いながら持ち込んだ伊右衛門濃いめを口に含んで眠気を紛らわそうとしているうちに、徐々に画面に惹きこまれて感情移入していく。超がつく長まわしの映像は、はじめ退屈に感じるものの、まるで自分が映画の中にいるかのように感じてしまう生々しい臨場感がある。
 ナチスの侵略、連合軍(イギリス)による占領、右派と左派の内戦といった混乱極まるギリシアで、『羊飼いの少女ゴルフォ』という芝居の巡業を続ける一座が歴史の激動に翻弄される様子を描く。これは映画を観た後に知ったのだが、主役の人物たちはアイスキュロスの悲劇に基づいているらしい。古典を踏襲して現代史を描くという手法は見事というほかない。
 この映画で最も心が痛むのは、処刑やレイプなどの暴力的なシーンではなく、デモ隊に対する占領軍の発砲(血の日曜日事件というらしい)や、監獄内での政治犯に対する拷問などを、登場人物が回想して語り聞かせるところである。国が違う、主義主張が違う。利害が対立するというだけで人を人として扱わなくなる人類の業について、鑑賞後、深く考えてしまった。4時間というのは確かにしんどいが、それでも絶対に観る価値のある映画だと断言できる。1975年発表の作品であるが、右派軍事独裁政権のもとで撮影を行ったというのだからなおさら凄い。
 新年一発目にこんな映画をもってくる早稲田松竹はなんと素晴らしい映画館ではないか。しかも次回が『ホット・ファズ』というのが非常にニクい。来週は大いに笑わせてもらおうじゃないか。ひとまず今夜は、今年もたくさんの素晴らしい映画との出会いを提供してくれるであろう早稲田松竹に乾杯といこう。
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『鬼が来た!』

チアン・ウェン監督




 いやーこれは凄い。太平洋・大東亜戦争末期を扱った2000年発表の中国映画であるが、よくある反日映画などとはまったく次元が異なる傑作だ。
 とある農村に謎の男が現れ、マーという村人を脅し、麻袋にくるんだ日本兵と中国人通訳の二人を残していく。仕様がないので二人を保護し、拘束しながらも世話をするが、約束の期日になっても男はやってこない。結局半年もの間、わけも分からずこの二人を抱え込むことになる。その間の日本兵・通訳とマーとの交流や、村人の葛藤をコメディーも多分に交えながら描いたのが前半だ。死のうとして必死にマーを侮辱する日本兵の言葉を通訳がまったく反対に訳すところなどはなかなか笑える。侮辱だと思って教えてもらった中国語の「お父さんお母さん新年明けましておめでとうございます」を凄んで叫ぶシーンは秀逸である。リウ老子という刀剣使いのじいちゃんもかなり馬鹿でいい。タイトルの言葉は彼によるものである。
 日本兵は次第に世話を受けたことに恩義を感じだし、礼に穀物2台分をやるといって解放してもらうのだが、本部に向かったところで酒塚猪吉隊長が登場する。澤田謙也という役者さんなのだそうだが、この人がちびりそうなくらい凄い迫力で、まさしくこれぞ帝国軍人といった感じである。これ以降の後半は雰囲気がガラリと変わる。酒塚隊長は生きて戻ってきた兵士をリンチするも、「皇軍は信頼を重んず」と彼が交わした契約を守って村に穀物を運ぶ。そして物語は悲劇的に進んでいく。村の虐殺が始まる際の狂気の緊迫感は見ものだ。「みんながやるなら俺も!」という日本人の気質がよく出ている。そもそもあんなおっかない上官がいれば逆らえる人などいないだろうが。バックの軍艦マーチが不気味に耳に残る。
 日本人の描写がフェアでないという批判もあるそうだが、僕はそうは感じなかったな。馬鹿で野蛮な日本人は今だってそこいらにゴロゴロいるし、そんな奴が占領軍という絶対的な支配力を持てば、ああいう振る舞いもまったく不自然でないと思う。もちろん中国人は日本兵に媚びへつらってへこへこしている。死にたくないからそりゃ当然だ! この辺はかなり脚本がしっかりしていると思った。
 この映画はカンヌでグランプリを獲得したが、中国では発禁をくらっているという。観るべきと言う価値のある作品である。

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『一瞬の夢』

ジャ・ジャンクー監督





 初めてこの映画を観たのは、以前早稲田松竹でジャ・ジャンクー特集として『長江哀歌』との二本立てで上映されていた時だった。どちらもとても面白かったのだが、特にこの『一瞬の夢』は気に入って、ずっともう一度観たいと思っていた。なかなかレンタル屋にもないので、この度Amazonで購入した。好きな映画はDVDで持っておきたいという損な習性が、どうも僕にはあるようだ。今後も少しずつ増えていくに違いない。
 この映画の主人公のウーはスリのチンピラで、町のつまはじきものである。親友にも見放され、畜生良いことねえなあと思っていたら女ができたものの、その女も突然去ってしまう。実家に帰ったら帰ったで、親とケンカして追い出され、最後にはドジって逮捕されてしまう。そんな、どうしようもない男の話。
 こんな話のどこが面白いかって、何といっても主人公の焦燥である。かつて兄弟同然だった男が今では青年実業家として成功して遠い存在となっているし、どうやら手下のアイツには女ができたらしいってことで、最高にイライラするウー。メイメイに照れながらもアタックするウー。仕事を休んだメイメイを見舞うシーンはとてもいい。女が消えて、親に見捨てられて、逮捕されてと、何もかもうまくいかなくて、己のみじめさにうんざりするウー。これらのうちいずれにも共感できないのなら、残念だけどあんたとは仲良くなれないな。
 また画面に映る、中国の街並みもこの映画の魅力である。北京などの大都市ではなく、おそらくこれが10年前の平均的な中国の都市なのだろう(監督の地元だそうだ)。開発が進むにつれ建物は打ち壊され、昔ながらの風景は少しずつ消えていく。

「ここら一帯が越すんだな」
「老舗だろうがおかまいなしさ」
「新旧交代だ 文句言うな」
「"新"なんてあるのかよ」

インディペンデントで制作されたこの映画には中国当局による検閲は行われなかったとのことで、日本公開当時でも中国本国では未発表状態であったらしい。それも多分このあたりが絡んでいたのではないかな。しかしながら、開発が始まったとはいえ雑多な街は非常に荒廃しており、まるで『ワイルド・スタイル』で見れる70年代のブロンクスのゲットーのようである。廃墟などに惹かれる人間ならたまらないはずだ。それももちろんジャ・ジャンクーの哀愁を誘う映像美があってこそなのだが。
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