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『一瞬の夢』

ジャ・ジャンクー監督





 初めてこの映画を観たのは、以前早稲田松竹でジャ・ジャンクー特集として『長江哀歌』との二本立てで上映されていた時だった。どちらもとても面白かったのだが、特にこの『一瞬の夢』は気に入って、ずっともう一度観たいと思っていた。なかなかレンタル屋にもないので、この度Amazonで購入した。好きな映画はDVDで持っておきたいという損な習性が、どうも僕にはあるようだ。今後も少しずつ増えていくに違いない。
 この映画の主人公のウーはスリのチンピラで、町のつまはじきものである。親友にも見放され、畜生良いことねえなあと思っていたら女ができたものの、その女も突然去ってしまう。実家に帰ったら帰ったで、親とケンカして追い出され、最後にはドジって逮捕されてしまう。そんな、どうしようもない男の話。
 こんな話のどこが面白いかって、何といっても主人公の焦燥である。かつて兄弟同然だった男が今では青年実業家として成功して遠い存在となっているし、どうやら手下のアイツには女ができたらしいってことで、最高にイライラするウー。メイメイに照れながらもアタックするウー。仕事を休んだメイメイを見舞うシーンはとてもいい。女が消えて、親に見捨てられて、逮捕されてと、何もかもうまくいかなくて、己のみじめさにうんざりするウー。これらのうちいずれにも共感できないのなら、残念だけどあんたとは仲良くなれないな。
 また画面に映る、中国の街並みもこの映画の魅力である。北京などの大都市ではなく、おそらくこれが10年前の平均的な中国の都市なのだろう(監督の地元だそうだ)。開発が進むにつれ建物は打ち壊され、昔ながらの風景は少しずつ消えていく。

「ここら一帯が越すんだな」
「老舗だろうがおかまいなしさ」
「新旧交代だ 文句言うな」
「"新"なんてあるのかよ」

インディペンデントで制作されたこの映画には中国当局による検閲は行われなかったとのことで、日本公開当時でも中国本国では未発表状態であったらしい。それも多分このあたりが絡んでいたのではないかな。しかしながら、開発が始まったとはいえ雑多な街は非常に荒廃しており、まるで『ワイルド・スタイル』で見れる70年代のブロンクスのゲットーのようである。廃墟などに惹かれる人間ならたまらないはずだ。それももちろんジャ・ジャンクーの哀愁を誘う映像美があってこそなのだが。
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