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『竹光侍』

松本大洋画・永福一成作


 いつの間にか松本大洋の刊行中の新作『竹光侍』の最新刊が出ていた。大学に入ってよりは漫画はほとんどまったくと言ってもいいほど読まなくなったが、井上武彦の『バガボンド』と、松本大洋作品だけは新刊が出るたびに逐一購入している。この5巻の帯にはあだち充(!)のコメントが寄せられているのだが、曰く、「――はい、こういう漫画が好きなんです。」 まさしく! そうなんです。こういうのが好きなんです。

「こんな血なまぐせぇ町、こりごりだ。おれぁ旅にでる。屹度でる。」

 松本大洋は作品ごとに絵柄を大胆に変えるという、非常に器用な漫画家である。『鉄コン筋クリート』などのイメージから「ヘタウマ」といった印象を持っている人もいるかもしれないが、とんでもない。では『鉄コン』の次の『ピンポン』の繊細な絵はどう説明するというのだ。前作の『ナンバー吾』では、グスタフ・クリムトやエゴン・シーレなどから影響を受けたと思われるような絵柄となっており、マジック・リアリズムのような幻想的な世界を作り出している。この『竹光侍』はまさかの時代劇というだけあって、絵柄も非常に「和」を感じさせるものになっていて、なおかつ、前作で見せた幻想的な世界観はしっかりと残されている。人物や風景は激しくデフォルメされ、グラフィカルですらある。特に極端に歪められた建物は、ページに動きをあたえていて目に楽しい。一コマ一コマの構図も見事であり、惚れ惚れするばかりだ。登場人物の話す江戸弁や武士言葉も気持ちいい。はて、これは褒めすぎだろうか? いやいや、だって好きなんだもの。
 松本大洋作品はキャラクターも魅力的であるが、複数の作品に絶対的な悪、純粋な悪といった役目を負ったキャラクターがしばしば登場する(といっても、単純に善悪二元論に収まるわけでもない)。『ZERO』や『鉄コン』もそうだし、『ナンバー吾』ではドノヴァンがそうだ。『竹光侍』では木久地がそれにあたるだろう。『吾』ではドノヴァンは自分を殺した王の中に生き続けたが、果たして木久地はこれから宗さんにどう影響を与えるのだろうか。原作者の永福一成は松本大洋のアシスタントをしていたこともあるようで、これまで「松本大洋らしさ」は損なわれていないが、これからの佳境でどう永福の色が出てくるのか、とても楽しみだ。
 とにかく今は、続きの6巻が出るのを、待つべし、待つべし…
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