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孤独な趣味の世界
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『ツィゴイネルワイゼン』

鈴木聖順監督


 さっそく更新が滞ってしまった。が、まあ気負わず行こう。どうせ誰にも教えていないし、見られていやしないのだから。
 さて、この『ツィゴイネルワイゼン』だが、以前早稲田松竹で上映していたのを見逃したので、この度DVDを借りて観てみた。しかし、これが困った。語ろうとしても、如何せん、理屈で説明できるような映画ではないのだ。夢と現実、生と死(死してなお鮮烈な中砂の存在感よ!)さえ曖昧であるのだ。このストーリーを完全に理解することはできないし、実際そうする必要もないように思う。理を解さなくとも、豪放磊落な中砂の魅力や、妖艶な妻たちのエロティシズムと狂気、目盲の狂言回しの3人組など、画面に映るこれらの姿は、強烈な体験として僕の記憶に残ることだろう。
 
なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ

これは『閑吟集』という室町時代に成立した歌謡集に収められた有名な一首で、訳すと、「まじめくさって何になる。一生は夢だ。ただ狂えばいい」となるらしい。タイトルにもした後半部は、鈴木聖順監督の座右の銘であるそうだ。結局このことが一番この映画をうまく説明しているのではないか。
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『All Rebel Rockers』

Michael Franti & Speahead


 昨年は概して新譜をあまり買わなかった。買ったものしても、聴きこんだといえるものは皆無である。(でもまあアル・グリーンのは結構聴いたかな?)というのも、家でゆっくり音楽を聴く時間を設けられなかったのがその理由だ。もはや僕にとって音楽がかつてほど重要なものでなくなっているのではないかという悲しい考えが脳裏をよぎったが、増え続けるCDを見てそれはあっけなく否定された。これからも、きっと音楽は僕を支えてくれるだろう。話がそれた。そんな状況であるが、2008年の私的ベスト・シングルを選ぶとしたらマイケル・フランティ・アンド・スピアヘッドの「セイ・ヘイ(アイ・ラヴ・ユー)」に決まりだ。

Michael Franti & Spearhead - Say Hey (I Love You)


 この曲が収録されてるアルバムにしてもまだあまり聴いてはいないし、ていうか買ったのも今年に入ってからだけど、まあそんなことはいいじゃないか。どうだい、この快活さときたら。力強く繰り返される「I Love You」の言葉。少々照れくさくはあるが、結局これに勝てるものなんてないのかも。
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『旅芸人の記録』

テオ・アンゲロプロス監督




 早稲田松竹にて鑑賞。実は前日に『2001年宇宙の旅』を観ていたのだが途中かなりウトウトしてしまったのでそれはなかったことにして、これが2009年の映画初めだと意気込んでチケットを買ったものの、結局この映画でもウトウトしてしまった。それもこの作品、3時間52分にもわたる超大作なのだが、クローズアップを極力排除した超長まわしを特徴としており、特に淡々と静かに物語が展開(転回)される前半部は、眠気を催さずに観るにはかなりの集中力を要する。しかしながら、「やれやれ、これが4時間続くのか」などと思いながら持ち込んだ伊右衛門濃いめを口に含んで眠気を紛らわそうとしているうちに、徐々に画面に惹きこまれて感情移入していく。超がつく長まわしの映像は、はじめ退屈に感じるものの、まるで自分が映画の中にいるかのように感じてしまう生々しい臨場感がある。
 ナチスの侵略、連合軍(イギリス)による占領、右派と左派の内戦といった混乱極まるギリシアで、『羊飼いの少女ゴルフォ』という芝居の巡業を続ける一座が歴史の激動に翻弄される様子を描く。これは映画を観た後に知ったのだが、主役の人物たちはアイスキュロスの悲劇に基づいているらしい。古典を踏襲して現代史を描くという手法は見事というほかない。
 この映画で最も心が痛むのは、処刑やレイプなどの暴力的なシーンではなく、デモ隊に対する占領軍の発砲(血の日曜日事件というらしい)や、監獄内での政治犯に対する拷問などを、登場人物が回想して語り聞かせるところである。国が違う、主義主張が違う。利害が対立するというだけで人を人として扱わなくなる人類の業について、鑑賞後、深く考えてしまった。4時間というのは確かにしんどいが、それでも絶対に観る価値のある映画だと断言できる。1975年発表の作品であるが、右派軍事独裁政権のもとで撮影を行ったというのだからなおさら凄い。
 新年一発目にこんな映画をもってくる早稲田松竹はなんと素晴らしい映画館ではないか。しかも次回が『ホット・ファズ』というのが非常にニクい。来週は大いに笑わせてもらおうじゃないか。ひとまず今夜は、今年もたくさんの素晴らしい映画との出会いを提供してくれるであろう早稲田松竹に乾杯といこう。
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プロフィール
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